■帯芯の豆知識

<帯芯の素材について>

帯芯は、綿、絹、ウール、麻、ポリエステルなどが主な材料です。
最近は、不織芯と呼ばれる、織物でない素材も使われるようになりましたが、基本の素材は織物です。
縦糸は基本は綿。そこに絹やウールなど、それぞれの素材を横糸として織り込んでいきます。
縦糸が綿である理由は、織り上がる帯芯材の強度や風合いのためですが、別の理由もあります。
織物工場で布を織る場合、横糸は途中で取替え・変更が可能ですが、縦糸は糸を使い切るまで取り換えられません。
縦糸まで取り換えて生産していたのでは、大変効率が悪くなってしまうのです。
とはいえ、綿の縦糸は、糸の太さの種類だけでも20〜30種ありますので、各素材との組合わせによって布の種類は多岐にわたります。





<帯芯の素材別の特徴(1)>

【綿芯】
汗を良く吸い、なおかつ通気性が良くて湿気がこもり難いのが特徴です。
メッシュ芯に次ぐ通気性の良さを持っています。

【ウール芯】
摩擦力が強いのが特徴です。帯の中で芯が滑り難いというメリットがあります。
起毛させた芯よりも格段に強い摩擦力があります。
ただ、虫がつきやすいので、きちんとケア・管理する必要があります。
値段は綿芯などと比べると少し高価です。

【絹芯】
軽さが最大の特徴です。他の芯に比べ、金額はどうしても高くなります。
かつては日本国内でも養蚕が盛んでしたが、現在その全ては中国産です。





<帯芯の素材別の特徴(2)>

【ポリエステル芯】
洗えるという事が大きな特徴の帯芯です。汗をかく時期に特に適しています。
洗えますので衛生的に使え、再利用も可能です。

【不織芯】
不織布を使った帯芯です。とにかく軽く、ボリュームがある点は、他の帯芯と明らかに違います。
ただ、織物ではないので、強度はありません。
ですから、使用頻度が高い帯の芯には向いていません。
数回の使用で、取り換えなくてはいけなくなったというお話も聞きます。
金額も他の芯と比べて特に安い訳でもありません。
どうしてもボリュームが必要で使う回数が少ない帯には向いています。





<帯芯の素材別の特徴(3)>

【起毛芯】
針布という、金属針を巻いたローラーを回転させ、その上に生地を走らせることによって、生地を毛羽立たせて作ります。
摩擦力が強くなるので、帯の中で芯が滑り難くなります。

【真綿引き帯芯】
帯と帯芯の滑りを抑える方法としては起毛させるのが一般的ですが、帯芯に真綿を薄く引くことで滑りを抑える「綿引き」という仕立があります。
しかし、真綿を引くのはとても手間のかかる作業なため、今では大変珍しい手法になりました。
塩瀬など、やわらかい染帯に使われることが多いです。




<「絹」の表示にはご注意ください>

「絹入りの不織芯」というのがあります。
材料の表示上、「絹を○%使用」などと書かれていますが、ここで使われている絹は、切りくずなど他で使ったものの残りくずで、使い物にならないものを集めたものです。
成分的には絹ですが、残念ながら、いくらか軽いということ以外、絹としての価値が活かされているようには思えません。
ただ、「絹○%使用」と表示できるので、売る側が売りやすいということなのでしょう。





<金線入りの帯芯>

昔は裁断の目安として、金色の線が入っていましたが、最近は少なくなってきました。
布の織り手からすればひと手間かかることではあるのですが、かつて普段着で皆が着物を着ていた時代には帯も頻繁に作られていたと思いますので、「目安の線が入っていると助かる」という方が多かったのでしょう。
今では、限られた方がこだわりを持って使われることが多い帯芯ですので、目安としての役割はあまり重要ではなくなってきたのかもしれません。
以前から着物に親しまれてこられた方は、今では少なくなった金線入りの帯芯を見ると、懐かしく感じるのではないでしょうか。





<帯芯が出来るまで(1)起毛処理>

生地の表面の繊維をけば立たせる処理のことを「起毛」と呼びます。
剣山のような針を巻いたローラーが回転している上に生地を流して表面をひっかいて加工します。
起毛がかかった生地で作った帯芯は、通常の帯芯に比べて摩擦力が強く、帯の中に入れたとき滑りにくくなります。
また、起毛によって厚みが増すので、通常よりボリュームのある帯芯になります。
同じ生地でも、起毛をするかしないかで、生地の特徴がだいぶ変わってきます。





<帯芯が出来るまで(2)防縮>

帯芯の生地は、裁断して帯芯になる前、必ず湯通しします。
湯通しする理由は、生地をこれ以上縮まないところまで縮ませ、帯芯になった後で縮んでよれることが無いようにするためです。
この作業を「防縮(ボウシュク)」といいます。この工程を経た後、帯芯は裁断され、製品になるのです。





<帯芯が出来るまで(3)生地の柔らかさの調整>

また、防縮以外にもう一つ、湯通しする理由があります。それは、生地の柔らかさの調節です。
生地が織られる前、縦糸には糊が付けられています。生地を織る時に縦糸が固くないと切れてしまうからです。
この糊が、湯通しの時、湯に溶け出します。そして、生地全体に糊が利いて固くなるのです。
そのため、より柔らかい生地が必要な場合は糊抜きし、柔らかく仕上げます。
また、逆により固い生地が必要な場合は糊を足して固くします。





<帯芯は最近の物の方が質が良い>

様々な伝統的製品において、質を落として値段を下げた廉価版・粗悪品が多く見られる昨今ですが、こと帯芯に関しては、昔より今の方が質も種類も向上しています。昔の帯をリサイクルするため帯芯を取り出してみると、綿でも湯通しなどの加工をせずに使われていたり、中には再生した糸を糊で固めて作ったような帯芯が出てくることもあるそうです。
今では着物は普段着というより特別なときに着るものになってきていますので、「特別な時ぐらいは良いものを」という気持ちが製品にも反映しているのかもしれません。





<帯と帯芯の関係(1)袋帯編>

袋帯とは、表裏両面に模様がある丸帯を簡略化して裏を無地にした帯で、明治時代から作られるようになりました。
昔は袋状に織られ、中に帯芯を入れて仕上げるためにこの名が付きました。現在目にする帯の中では最も厚く豪華で、フォーマルな場面で使われる帯です。
厚くしっかりした帯ですので、この袋帯に合わせる帯芯は相対的に薄いものになります。当社でも、袋帯用の帯芯には厚みが出る起毛加工を施さないものが主流で、帯芯全体の中で最も薄い部類になります。





<帯と帯芯の関係(2)名古屋帯編>

その名の通り、名古屋で考えられて全国に広まった帯です。袋帯より軽く締めやすく、準礼装からお洒落着まで幅広く楽しむことが出来る帯です。帯自体が袋帯より薄いため、袋帯用の帯芯より厚くしっかりした帯芯が使われます。
当社の名古屋帯用の帯芯は、厚みを持たせ、帯とずれにくくするために全て起毛加工を施してあります。





<帯と帯芯の関係(3)半幅帯編>

半幅帯は、文字通り半分の幅の帯のことで、男性用として使われたり、浴衣の帯としてよく使われています。浴衣の帯結びを想像していただくと分かる通り、幅が半分のため、様々な結び方を楽しむことができます。
半幅帯の帯芯は、仕上げたい帯の締め心地や帯の固さに合わせて、通常の幅の帯芯を半分に折って使ったり、帯芯を半分に切って使ったりします。





<帯と帯芯の関係(4)塩瀬帯編>

塩瀬帯は名古屋帯の一種で、塩瀬羽二重の生地で作られた帯のことです。横糸に太い糸を使って織られているので、横糸が目立つのが特徴です。つるりとした風合いの生地で、カジュアル向けの帯と言えます。
帯自体が薄いので、帯芯には厚手のものが合います。当社でもこの塩瀬帯用の帯芯はかなり厚手の部類に入ります。もちろん、全て起毛加工がしてあります。





<帯と帯芯の関係(5)夏帯編>

明確に夏帯という帯の基準があるわけではなく、夏向けの帯のことを指します。様々な織り方のもの、素材のものがありますが、全体として織り目が粗く、生地は薄く、一目で夏向きと分かります。
夏帯に合わせる帯芯は、夏帯の涼しさを損なわせないため起毛加工はせず、帯同様目の粗い生地を使っていて、通気性が良く、夏に着心地の良い仕上げになっています。





<帯と帯芯の関係(6)踊り帯編>

踊り帯は、舞踊家が舞台で好んで使ったことからこの名が付きました。踊り用だけでなく、カジュアルな場面で幅広く使用することもできます。
この踊り帯用としてよく使われるのが、生駒という帯芯です。当社で最も厚手の帯芯で、この厚さの帯芯を通常の綿で作るとかなり高額になってしまうのですが、特紡と呼ばれる綿くずを集めて作った糸で作ることで、これだけの厚さがあっても低価格を実現しています。





<帯の種類と特徴(1)丸帯>

最も格式の高い帯で、1枚の織物を半分に折って仕立てます。広幅の織物を丸ごと使うので「丸帯」と呼ばれるそうです。仕立て上がりの倍の幅の織物を必要とするため、製作に時間がかかる大変高価で、厚みがあって重たい帯です。かつては、帯は「重ければ重いほど良い」という価値基準がありましたが、現在の需要とは合わなくなってきていて、帯芯を抜いて少しでも軽くして仕立て直すということも聞かれます。
自分で着付けることは出来ず、人に着せてもらうことが前提の帯ですので、現在では婚礼の花嫁衣裳や舞妓さんが使う程度で、使われる場面はかなり少なくなっています。より豪華に見せるため、七五三の子供用の帯には丸帯が使われていることがあります。
あくまで目安ですが、帯の長さは1丈1尺5寸(約4m36cm)、幅は1尺8寸(約70cm)の織物を二つ折りにして9寸(約35cm)に仕立てます。格式が高い二重太鼓用の帯です。





<帯の種類と特徴(2)袋帯>

丸帯を簡略化して生まれた帯で、丸帯がほとんど使われなくなった現在では、礼装用の帯は袋帯が主流になっています。留袖・訪問着・振袖などの帯として使われます。
現在一般的な袋帯は、織物の表に無地の裏地を縫い付けて作られた片側帯という仕立てになっていますが、本来は縫い目が出ないように袋状に織られた織物で仕立てられた「本袋」がその名前の由来です。現在のように表裏を別々の生地の両側をミシン縫いやかがり縫いした帯は「縫い袋帯」と呼ばれて区別されます。
丸帯と違い自分で締めることができ、丸帯より軽く、扱いやすいために普及しました。
帯の長さは1丈1尺5寸(約4m36cm)以上、幅は8寸(約31?)前後で、二重太鼓用として使われます。





<帯の種類と特徴(3)名古屋帯編>

お太鼓に結ぶ部分だけを並幅にし他の部分を半幅に仕立てた帯を名古屋帯と呼びます。名古屋で発案されたのがその名前の由来です。胴に巻く部分を最初から半分に折って仕立ててあり、着付けにかかる時間を短縮出来るのが特徴です。主に小紋・紬などカジュアルな着物に使われます。
丸帯、袋帯がお太鼓の部分が二重になる「二重太鼓」という締め方をするのに対して、名古屋帯はお太鼓が一重の「一重太鼓」という締め方をします。これも、着付けの時間の短縮につながっています。「二重太鼓」の方がより格式が高くフォーマルなのですが、弔事の場合「不幸が重ならないように」という意味で、一重太鼓の方がふさわしいとされました。現在、多くの方が着物を着る機会は喪服としてという場合が多いため、名古屋帯がより普及することになりました。
一重太鼓用の帯ですので、長さは9尺5寸(約3m60cm)前後と丸帯・袋帯に比べて短く、幅は8寸(約31cm)前後です。





<帯の種類と特徴(4)名古屋帯編 〜九寸名古屋帯〜>

名古屋帯には九寸名古屋帯と八寸名古屋帯がありますが、これは仕立てる前の織物の幅の違いで、仕立て後の帯の幅はどちらも8寸です。九寸名古屋帯は9寸幅の織物の両端を5分ずつ内側に折り込んで縫いしろとして、帯芯を入れて仕立てます。帯芯を入れるので柔らかい生地で作ることが出来、塩瀬、縮緬、西陣織りなどが表に使われます。そのため、フォーマル度が高い物が多いのが特徴です。
いわゆる「名古屋仕立て」と呼ばれる、胴に巻く部分を半分に折って縫製する仕立てにされることが多い帯です。手先から胴に巻く部分まで縫製されているため大変着付けがしやすく、名古屋帯を代表する帯と言えます。





<帯の種類と特徴(5)名古屋帯編 〜八寸名古屋帯〜>

九寸名古屋帯と異なり、最初の織物の織幅そのままで、帯芯を入れずに端をかがって仕立てます。
芯を入れずに仕立てるため、紬地、綴れの帯、博多帯など織物自体がしっかりした厚めで硬いものが使われます。そのため、カジュアルな物が多いのが特徴です。
「松葉仕立て」と呼ばれる、手先部分だけを半分に折って縫製する仕立てにされることが多い帯です。松葉仕立ての帯は、名古屋仕立ての帯の締めやすさには及ばないものの、手先が縫製されているため着付けがしやすく、更に、自分の好きな幅に調整して巻くことが出来るというのが特徴です。





<帯の種類と特徴(6)京袋帯編>

京袋帯は、名古屋帯と同じ長さ(一重太鼓用の長さ)で袋帯のような仕立てになっている帯です。
名古屋帯ほど簡易的でなく、表と帯芯の相性などにもこだわって作れる帯です。二重太鼓に締める袋帯より格式としては下になりますが、名古屋帯よりは格上の帯とされます。
正式な礼装には向きませんが、パーティーやお食事会などでのおしゃれ着用として幅広く使うことができる帯です。





<帯の種類と特徴(7)半幅帯編>

半幅帯は、その名の通り通常の帯の半分の幅の帯です。幅が狭いため、お太鼓結びにはできません。その代わりに、背中に大きく張り出させず、すっきりと結ぶことが出来る帯です。
現在では、小紋・紬・浴衣などの普段着に使われるカジュアルな帯で、柄、素材、仕立て(2枚合わせ・筒状など)も様々なものがあり、長さにも基準がありません。元々は、羽織などを着て背中の帯が見えない時に使う帯として生まれた帯で、素材や造りによっては比較的フォーマルな場面でも使うことが出来ます。現在では、車や電車など背もたれがある乗り物に乗る時などにも重宝します。





<帯の結び方(1)二重太鼓編>

この結び方をするときは、主に袋帯を用います。結婚式の留袖や訪問着、卒業式の振袖などの時によく使われる結び方です。
「喜びが重なって長く続きますように」という思いを表すと言われており、慶事に使われる結び方です。
着物の帯の結び方として代表的で一般的な結び方で、最もフォーマルな場面にも通用します。
伝統を感じさせる二重太鼓ですが、実は比較的新しく考案された結び方で、誕生は江戸時代末期なのだそうです。明治の終わりに一般に広まって、現在では帯結びを代表する結び方となりました。





<帯の結び方(2)一重太鼓編>

この結び方をするのに用いる代表的な帯が名古屋帯です。喪服の時の帯の結び方としてよく使われます。
着物の帯の最も基本的な結び方で、初心者がまず初めに学ぶ帯の結び方です。
「不幸が重なりませんように」という思いを表すと言われ、主に弔事に使われます。
結び方に込めた言葉の意味もありますが、短時間で着付けをすることが出来る名古屋帯と一重太鼓結びという組み合わせが、何かと忙しい弔事に適していたために定着したのではないかと思いいます。





<帯の結び方(3)文庫結び編>

文庫結びは振袖に使われる結び方です。江戸時代には武家の女性の基本の帯結びとされていました。
こうした歴史もあり、格調高い結び方とされています。そのため、卒業式や成人式などの時によく使われる結び方です。
本来、年齢に関係なく使われる結び方ですが、現在では太鼓結びが年齢問わず誰もが使える結び方とされているのに対して、文庫結びは比較的若い女性の結び方と認識されています。場面や帯の素材を選ばず、手軽に結ぶことができる上、「蝶文庫」「しだれ文庫」などバリエーションも豊富なため、大変人気のある結び方です。





<帯の結び方(4)ふくら雀編>

ふくら雀は、明治に始まったとされている結び方です。振袖や訪問着の時に用いられる若い女子向けの帯結びです。
寒中に羽毛をふくらませて丸くなっている雀の姿を模した左右対称の結び方で、「福良雀」とも書けることから、福と繁栄を願う意味がある大変縁起の良い結び方とされています。そのため、お見合いや結納の場面でよく使われて来ました。皇室でも結納の儀にこの結び方を採用しています。文庫結び同様、様々なアレンジが考案されている人気の結び方です。